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内定もらうと労働契約スタート?就活生が知っておくべき基本知識を解説します


はじめに―なぜ内定と労働契約の関係を理解すべきか

就職活動を頑張って、ようやく企業から「内定通知」を受け取ったあなた。「これで就職が決まった!」と安心していませんか?しかし、内定から入社までの期間には、実は様々な法的な問題が潜んでいます。

例えば、こんな不安を感じたことはありませんか?

  • 「内定をもらったけど、本当に4月から働けるの?」
  • 「内定取消って実際にあるの?どんな場合に起こるの?」
  • 「内定承諾書にサインしたら、もう他の企業は受けられない?」

これらの疑問に答えるためには、「内定」と「労働契約」の法的関係を正しく理解することが重要です。本記事では、労働法の観点から、内定の法的性質について詳しく解説していきます。

1. 労働契約とは何か―基本から理解しよう

労働契約の定義と成立要件

まず、「労働契約」とは何かを確認しましょう。労働契約法第6条は次のように定めています。

労働契約法第6条 「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」

つまり、労働契約とは、「あなたが会社で働き、会社がその対価として給料を支払う」という約束のことです。民法上の契約の一種であり、双方の合意によって成立します(民法第522条第1項)。

契約成立のプロセス

一般的な契約は、以下のプロセスで成立します:

  1. 契約締結の誘引 – 企業が「うちで働きませんか?」と募集をかける
  2. 申込み – あなたが「働きたいです」と応募する
  3. 承諾 – 企業が「採用します」と回答する

民法第522条第1項によれば、承諾の意思表示がなされた時点で契約は成立します。では、就職活動における「内定」は、このプロセスのどこに位置づけられるのでしょうか?

2. 就職活動の流れと労働契約―どの段階で契約は成立するか

新卒採用の一般的なプロセス

新卒採用は、以下のような長期にわたるプロセスを経て行われます:

3年生の3月〜4年生の6月頃:就職活動期間

  • 企業説明会への参加
  • エントリーシート提出
  • 筆記試験・面接試験

6月〜9月頃:内々定期間

  • 選考通過の連絡(内々定)
  • 内定承諾書の提出依頼

10月1日:正式内定

  • 内定通知書の交付
  • 内定式の開催

10月〜翌年3月:内定期間

  • 内定者研修・懇親会
  • 卒業見込み証明書の提出
  • 健康診断

4月1日:入社

  • 入社式
  • 新入社員研修開始

各段階の法的性質

それでは、このプロセスの各段階は、法的にどのような意味を持つのでしょうか。

  1. 企業の募集活動 → 「契約締結の誘引」
    企業が行う募集活動は、労働契約締結に向けた「誘引」にすぎません。つまり、「うちの会社に応募してください」という呼びかけです。
  2. 学生の応募・受験 → 「申込み」
    学生がエントリーシートを提出し、採用試験を受けることが、労働契約の「申込み」にあたります。「私を採用してください」という意思表示です。
  3. 内定通知 → 「承諾」
    企業が内定通知を出すことが、労働契約の「承諾」にあたります。これにより、原則として労働契約が成立すると考えられています。

3. 内定の法的性質―最高裁判例が示した重要な考え方

大日本印刷事件最高裁判決の意義

内定の法的性質について、最も重要な判例が「大日本印刷事件」最高裁判決(最高裁昭和54年7月20日第二小法廷判決・民集33巻5号582頁)です。

事案の概要: 大学4年生のAさんは、大日本印刷から採用内定通知を受け、誓約書を提出しました。ところが、入社2か月前になって、会社から「グルーミー(陰気)な印象なので不適格」という理由で内定を取り消されました。Aさんは、内定取消は不当だとして裁判を起こしました。

最高裁の判断: 最高裁は、以下のような画期的な判断を示しました。

「企業の募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込であり、これに対する企業の採用内定通知は右申込に対する承諾であって、誓約書の提出とあいまって、これにより、大学卒業予定者と企業との間に、就労の始期を大学卒業の直後とし、それまでの間誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。」

「解約権留保付始期付労働契約」とは

最高裁判決が示した「解約権留保付始期付労働契約」という概念を、分かりやすく説明しましょう。

  1. 始期付(しきつき)労働契約
    「始期付」とは、「いつから働き始めるか」という開始時期が決まっている契約のことです。内定の場合、通常は「翌年4月1日から」働き始めることが決まっています。
  2. 解約権留保付
    「解約権留保」とは、一定の条件が発生した場合に、企業が契約を解除できる権利を持っているということです。ただし、この権利は無制限ではありません。

内定取消が認められる場合

最高裁は、内定取消(解約権の行使)が認められるのは、以下のような場合に限られるとしています:

「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる」

具体的には、以下のような場合が該当します:

正当な内定取消事由の例:

  • 卒業できなかった場合(留年・退学)
  • 必要な資格を取得できなかった場合
  • 健康状態の著しい悪化により就労が困難な場合
  • 重大な経歴詐称が判明した場合
  • 犯罪行為を行った場合

不当な内定取消事由の例:

  • 「印象が暗い」などの主観的理由
  • 軽微なSNS投稿の内容
  • 他社への就職活動継続(内々定段階)
  • 会社の業績悪化(整理解雇の4要件を満たす必要あり)

4. 内定と内々定の違い―法的保護の程度が異なる

内々定の法的性質

「内々定」は、正式な内定通知(10月1日)より前に、企業が学生に対して「採用予定である」ことを伝える事実上の行為です。法的には以下のような違いがあります:

項目 内々定 内定
時期 6月〜9月頃 10月1日以降
法的性質 労働契約は未成立(通説) 労働契約成立
取消の自由度 比較的広い 厳格に制限
損害賠償責任 信義則違反の場合あり 不当な取消は違法

内々定取消に関する裁判例

コーセーアールイー事件(福岡高裁平成23年3月10日判決・労判1020号82頁)では、内々定の段階でも、企業が学生に対して「ほぼ確実に採用する」という期待を与えた場合、その取消には信義則上の責任が生じうるとされました。

5. 実務的なアドバイス―就活生が注意すべきポイント

内定承諾書の法的効力

多くの企業は、内定通知とともに「内定承諾書」や「誓約書」の提出を求めます。これらの書類には、通常以下のような内容が含まれています:

  1. 入社の意思確認
  2. 他社の内定辞退の約束
  3. 内定取消事由の列挙
  4. 入社日の確認

重要なポイント: 内定承諾書に法的拘束力はありますが、憲法22条1項が保障する「職業選択の自由」により、入社前であれば内定辞退は可能です。ただし、民法627条1項により、2週間前までに申し出る必要があります。

内定期間中の過ごし方

やるべきこと:

  • 卒業に必要な単位の確実な取得
  • 必要な資格試験の準備
  • 健康管理の徹底
  • 内定先企業の研究・準備

避けるべきこと:

  • SNSでの不適切な投稿
  • 違法行為・反社会的行為
  • 虚偽の報告(成績、健康状態など)
  • 無断での長期海外渡航

内定取消を受けた場合の対処法

万が一、不当な内定取消を受けた場合は、以下の対応を検討しましょう:

  1. 取消理由の明確化を求める
    • 書面での理由開示を要求
    • 就業規則や内定通知書の確認
  2. 証拠の保全
    • 内定通知書、メール、録音等の保管
    • やり取りの経緯を時系列で整理
  3. 相談窓口の活用
    • 大学のキャリアセンター
    • 労働基準監督署
    • 都道府県労働局の総合労働相談コーナー
    • 弁護士(労働問題専門)
  4. 法的措置の検討
    • 地位確認請求(従業員としての地位確認)
    • 損害賠償請求(慰謝料、逸失利益等)

6. 関連する労働法規と今後の展望

関係法令一覧

  • 労働契約法(平成19年法律第128号)
    • 第6条(労働契約の成立)
    • 第16条(解雇権濫用の禁止)
  • 民法(明治29年法律第89号)
    • 第521条以下(契約の成立)
    • 第627条(雇用契約の解約)
  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)
    • 第20条(解雇予告)
    • 第22条(退職時の証明)

採用活動の適正化に向けた動き

厚生労働省は「青少年の雇用の促進等に関する法律」(若者雇用促進法)に基づき、「事業主等指針」を定めています。この指針では、内定取消の防止や、やむを得ず内定取消を行う場合の配慮事項が示されています。

また、日本経済団体連合会(経団連)の「採用選考に関する指針」に代わり、政府主導の「就職・採用活動日程に関する関係省庁連絡会議」が新たなルールを定めており、採用活動の適正化が図られています。

まとめ―内定は「スタート地点」

内定通知を受け取った時点で、法的には「解約権留保付始期付労働契約」が成立しています。これは、あなたと企業との間に既に法的な関係が生まれているということです。

しかし、内定はゴールではなく、社会人としてのスタート地点です。内定期間を有意義に過ごし、4月からの新生活に向けてしっかりと準備を進めましょう。同時に、自分の権利を正しく理解し、不当な扱いを受けた場合には適切に対処できる知識を身につけておくことも大切です。

最後に、就職活動は人生の重要な転換点ですが、一つの通過点でもあります。内定の有無にかかわらず、自分のキャリアを長期的な視点で考え、継続的な成長を心がけることが、充実した職業人生につながるでしょう。

 

次回は、内定期間中の注意点について考えてみます。


参考文献・判例

  • 最高裁昭和54年7月20日第二小法廷判決(大日本印刷事件)民集33巻5号582頁
  • 福岡高裁平成23年3月10日判決(コーセーアールイー事件)労判1020号82頁
  • 菅野和夫『労働法〔第12版〕』(弘文堂、2019年)
  • 荒木尚志『労働法〔第5版〕』(有斐閣、2022年)
  • 厚生労働省「青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)について」

こんな就活塾はヤバイ【悪徳詐欺就活塾の巧妙な手口と被害の実態 】


悪徳就活塾の巧妙な手口と被害の実態 

はじめに ― なぜ優秀な学生ほど騙されるのか

「あなたは一生成功しない」

薄暗い個室で、5時間にわたる「説明会」の末、こう言い放たれる学生たち。東京都の公表資料によれば、実際にこのような言葉で追い詰められ、高額契約を結ばされた被害者が多数存在します。

2025年現在、悪徳就活塾による被害は減るどころか、むしろ巧妙化しています。特に注目すべきは、被害に遭うのは「就活に真剣に取り組もうとしている真面目な学生」だという点です。彼らは決して騙されやすい人たちではありません。むしろ、将来に対して真剣に向き合おうとしているからこそ、巧妙な罠にかかってしまうのです。

私は行政書士として、これまで多くの消費者トラブルの相談を受けてきました。その中でも就活塾被害は、若者の人生の門出を狙った、極めて悪質なものです。本稿では、実際の被害事例と最新の手口、そして法的な対抗手段について詳しく解説していきます。

第1章 デジタル時代の新たな脅威

従来型から進化した勧誘手法

2013年に東京都から行政処分を受けた「一生懸命塾」。この事件は、悪徳就活塾問題を世に知らしめる契機となりました。当時の手口は、大学周辺での声かけから始まり、事務所での長時間勧誘という、いわば「アナログ型」でした。

しかし2025年の今、彼らの手口は格段に進化しています。

■ SNS時代の巧妙な罠 – 典型的なパターン

最近の相談事例から、以下のような新たな手口が浮かび上がってきています。

【典型的なケース①:SNS経由の勧誘】

Instagram やX(旧Twitter)で「#就活 #24卒 #内定」といったハッシュタグで検索すると、きらびやかな投稿が並びます。「コンサル内定までの道のり」「総合商社に内定した私の就活術」―― 一見すると、先輩からの有益なアドバイスに見えるこれらの投稿。

このような投稿から、次のような流れで勧誘が行われることが報告されています:

  1. 「外資系企業内定者」を名乗るアカウントからDMが届く
  2. 「就活で悩んでいるようですね。よかったら相談に乗りますよ」という親切そうなメッセージ
  3. オンラインでの無料相談を経て、高額な就活プログラムへの勧誘

消費者庁の注意喚起によれば、これらの「内定者」アカウントの多くは、実在しない人物である可能性が高いとされています。プロフィール写真が海外のストックフォトサイトから転用されていたり、投稿内容が他のサイトからの盗用であったりするケースが確認されています。

■ オンライン面談の心理的トリック

コロナ禍を経て、Zoomなどのオンライン面談は日常的なものになりました。悪徳業者もこの変化を見逃しませんでした。

【よくある手口のパターン】

対面での勧誘と違い、オンライン面談には独特の心理的効果があります。以下のような手法が使われていると考えられます:

  • 安心感の演出:自宅という安心できる空間にいる学生に対し、最初は親身な相談相手を装う
  • 画面共有の悪用:派手な成功事例のスライドを次々と見せ、視覚的に圧倒する
  • 時間感覚の麻痺:「あと少しだけ」と言いながら、気づけば3時間以上経過
  • 決済の簡易化:画面共有のまま、クレジットカード情報入力画面へ誘導

国民生活センターへの相談事例では、「気がつけば画面共有でクレジットカード情報を入力していた」という報告が増加しているとのことです。

第2章 執拗な勧誘の実態 ― 5時間の心理戦

典型的な勧誘パターンの詳細分析

ここで、東京都が公表した実際の被害事例と、最近の相談傾向を踏まえた典型的な勧誘パターンを、時系列で詳しく見ていきましょう。

【典型的なケース②:長時間勧誘の流れ】

以下は、複数の被害相談を基に構成した、典型的な勧誘の流れです:

第1段階:接触(0分~30分)

  • 大学の就職イベント会場外で「就活生の意識調査」と声をかける
  • アンケート記入で個人情報を入手
  • 「無料セミナーがある」と誘導

第2段階:不安の醸成(30分~90分)

  • 他の学生と一緒に「就活の厳しさ」についての講義
  • 「大手企業の内定率は0.1%」などのデータで不安を煽る
  • 「このままでは内定は取れない」というメッセージの刷り込み

第3段階:個別攻撃(90分~180分)

  • 個別ブースへの誘導
  • ESや自己PRの否定
  • 「君のレベルでは無理」という人格否定

第4段階:救済の提示(180分~240分)

  • 「でも、うちの塾なら大丈夫」という解決策の提示
  • 成功事例の紹介(真偽不明)
  • 初めて高額な料金を提示

第5段階:締め付け(240分~300分)

  • 断ろうとすると態度が豹変
  • 「今決められない人は就活でも失敗する」
  • 「親に相談するのは自立していない証拠」
  • 疲労困憊になるまで勧誘継続

実際の被害事例(東京都公表資料より)

東京都が公表した実際の被害事例を見てみましょう。これらは平成24年(2012年)の事例ですが、現在でも同様の手口が使われています。

【実例1】平成24年4月の事例より

大学生の甲さんは、就活セミナー付近で「就活生の意識調査」と声をかけられ、翌日の「就活セミナー」に誘われました。

実際の被害者の証言:

「午前10時に訪問し、午後5時過ぎまで拘束されました。『金銭的に厳しい』と断ると、『日雇いのアルバイトをすればできる』と言われ、断れない状況に追い込まれました」

【実例2】平成24年8月の事例より

大学生の乙さんは、「一度帰って考えさせてください」と断った際の担当者の反応について、次のように証言しています:

「今までの親しげな様子が変わり、『そんな優柔不断な態度で、今ここで決められないようなら、今後差し迫った状況になっても決断なんてできない』と言われました」

使われる心理操作のテクニック

これらの事例から、悪徳就活塾が使用する心理操作のテクニックが明確に見えてきます。

■ 段階的要請法(フット・イン・ザ・ドア)

最初は「アンケート」という小さな要求から始まり、徐々に要求を大きくしていく手法です。心理学的に、人間は一度要求を受け入れると、次の要求も受け入れやすくなることが知られています。

■ 恐怖アピールと救済の提示

まず徹底的に不安を煽り、その後で解決策を提示する。これは「問題-解決型」の説得技法として知られ、相手の判断力を低下させる効果があります。

■ 時間的プレッシャー

「今日中に決めないと」という切迫感を演出し、冷静な判断をさせません。

■ 社会的証明の悪用

「みんな親には内緒で契約している」など、架空の「みんな」を使って、それが普通であるかのように思わせます。

第3章 法的観点から見た問題点

違反している法令の詳細

悪徳就活塾の勧誘行為は、複数の法令に違反しています。条文を挙げながら、その法的問題点を詳しく解説します。

■ 東京都消費生活条例違反

東京都消費生活条例第25条は、不適正な取引行為を禁止しています。

実際に東京都が「一生懸命塾」に対して認定した違反行為:

  1. 販売目的不明示(第25条1項3号)
    • 「就活生の意識調査」と偽って接触
    • 真の目的(高額な受講契約の勧誘)を隠蔽
  2. 威迫困惑・迷惑勧誘(第25条1項4号)
    • 「あなたは一生成功しない」等の脅し
    • 長時間の拘束による困惑

■ 特定商取引法違反

2020年3月31日、東京都は「一生懸命塾」に対し、特定商取引法違反で以下の処分を行いました:

  • 3ヶ月の業務停止命令
  • 代表取締役米盛みゆき氏への業務禁止命令

違反が認定された行為:

  • 勧誘目的を告げずに電話で呼び出し
  • 契約しない意思を示した消費者への執拗な勧誘継続

■ 消費者契約法による取消し

消費者契約法では、以下の場合に契約を取り消すことができます:

第4条3項2号(退去妨害) 実際の事例:「帰りたい」という意思を示したのに、5時間以上勧誘を続けた

第4条1項2号(断定的判断の提供) 実際の事例:「絶対に内定が取れる」「100%成功する」という勧誘

クーリングオフが使えない理由と対策

重要な注意点: 就活塾の契約は、原則としてクーリングオフの対象外です。これは、法定の「特定継続的役務提供」に該当しないためです。

しかし、以下の対策があります:

  1. 消費者契約法による取消し
    • 不当な勧誘があった場合は取消し可能
    • 取消し可能期間:追認できる時から1年間
  2. 民法による取消し
    • 詐欺・強迫による取消し
    • 錯誤による取消し
  3. 業者独自のクーリングオフ制度
    • 良心的な業者は自主的に設定
    • 契約前に必ず確認

第4章 巧妙化する手口への対抗策

2025年最新版・悪徳就活塾チェックリスト

以下のチェックリストは、消費生活センターへの相談事例と東京都の処分事例を基に作成しました。一つでも該当する項目があれば要注意です。

□ 初期接触に関する危険信号

  • 大学構内や就活イベント会場周辺で声をかけてくる
  • SNSで突然DMを送ってくる
  • 「アンケート」「意識調査」と称して個人情報を聞き出す
  • 無料セミナーや説明会への参加を執拗に勧める

□ 勧誘場所・時間の問題

  • 個室や密室での勧誘を行う
  • 3時間以上の長時間勧誘
  • 夜遅くまで拘束する
  • オンライン面談で画面共有を強要する

□ 料金・契約に関する不審点

  • 料金を最後まで明示しない
  • 「今日契約すれば割引」などと即決を迫る
  • 総額が30万円を超える高額設定
  • 分割払いやローンを強く勧める
  • 契約書の控えを渡さない

□ 説明内容の問題

  • 「絶対」「100%」「必ず」などの断定的表現を使う
  • 具体的なカリキュラム内容を説明しない
  • 成功事例ばかりで失敗例を話さない
  • 他の就活支援サービスを極端に否定する

□ 心理的圧迫

  • 現在の能力や経歴を否定する
  • 「このままでは就職できない」と不安を煽る
  • 断ると態度が豹変する
  • 人格否定や将来への脅しをする

□ 相談の妨害

  • 親や友人への相談を妨げる
  • 「みんな内緒で契約している」と言う
  • 「自立していない」などと相談を恥ずかしく思わせる
  • その場での決断を強要する

被害に遭わないための具体的行動指針

■ 事前準備の重要性

就活塾を検討する際は、必ず以下の準備をしてください。

  1. 情報収集を徹底する
    • 消費者庁、国民生活センターのウェブサイトで事業者名を検索
    • 「塾名 被害」「塾名 トラブル」で検索
    • 大学のキャリアセンターに評判を確認
  2. 録音アプリを準備する
    • スマートフォンの録音機能を確認
    • 長時間録音対応アプリをインストール
    • 録音は自己防衛の重要な手段(相手の許可は不要)
  3. 同伴者を連れて行く
    • 友人や家族と一緒に説明を聞く
    • 「一人だけ」と言われても断固拒否
    • 複数の目があれば冷静な判断が可能

■ 現場での対処法

【想定シーン別対処法】

場面1:路上で声をかけられた時

対応例:「すみません、急いでいるので」と言って立ち止まらない
重要:個人情報は絶対に教えない

場面2:しつこく勧誘された時

対応例:「条例違反ですよ」「消費生活センターに相談します」
最終手段:110番通報も検討

場面3:契約を迫られた時

対応例:「今日は説明を聞きに来ただけです」
    「必ず親に相談してから決めます」
ポイント:「我が家のルール」として断固拒否

場面4:帰らせてもらえない時

対応例:「体調が悪いので帰ります」と立ち上がる
緊急時:「監禁罪で警察を呼びます」→実際に110番

録音の重要性と法的効力

録音に関する法的整理:

自分が当事者となる会話の録音(秘密録音)は、相手の許可なく行うことができます。これは最高裁判例でも認められています。

録音が証拠となる場面:

  • 消費生活センターへの相談
  • 弁護士への相談
  • 民事訴訟での立証
  • 刑事告訴(脅迫罪、監禁罪等)

推奨する録音アプリ:

  • iPhoneの場合:標準のボイスメモ
  • Androidの場合:Googleレコーダーアプリ
  • 共通:Evernote等のメモアプリの録音機能

第5章 被害に遭ってしまったら

72時間以内にすべきこと

契約してしまっても諦める必要はありません。迅速な行動が被害を最小限に抑えます。

■ 24時間以内の対応

  1. 支払いの停止
    • クレジットカード会社へ即連絡
    • 銀行振込の場合は組戻し手続き
    • 現金支払いでも領収書は必ず保管
  2. 証拠の保全
    • すべての書類を保管
    • メール、LINE等のスクリーンショット
    • 勧誘の詳細をメモ(日時、場所、担当者名、発言内容)

■ 48時間以内の対応

  1. 消費者ホットライン188への相談
    • 局番なしの188で最寄りの消費生活センターへ
    • 専門相談員が対応策をアドバイス
    • 相談は無料
  2. 大学への報告
    • キャリアセンターや学生相談室へ
    • 同じ被害者がいる可能性
    • 大学からの支援も期待できる

■ 72時間以内の対応

  1. 内容証明郵便での通知
    • 契約取消しの意思表示
    • 行政書士・弁護士への相談も検討
    • 配達証明付きで送付
  2. 警察への相談
    • 脅迫や監禁があった場合
    • 相談だけでも記録に残る
    • #9110(警察相談専用電話)も活用

解決に向けた具体的アプローチ

【パターン別対処法】

ケース1:録音がある場合

想定される展開:
- 録音を基に消費生活センターが業者へ連絡
- 「退去妨害」「威迫困惑」が認定されやすい
- 全額返金の可能性が高い

ケース2:複数の被害者がいる場合

想定される展開:
- 被害者同士で情報共有
- 集団で弁護士に相談
- 業者も無視できず、返金交渉が有利に

ケース3:証拠が少ない場合

想定される展開:
- 記憶が新しいうちに詳細な陳述書作成
- 同時期の被害者を探す
- 消費生活センターの斡旋を活用

保護者の方へのメッセージ

お子様から就活塾の被害を打ち明けられた際、まず大切なのは責めないことです。

東京都の事例でも明らかなように、悪徳業者は「親に相談するのは自立していない」と巧妙に洗脳します。相談してくれたこと自体を評価し、一緒に解決策を考えてください。

予防のための家族ルール(提案):

  • 10万円以上の契約は必ず家族で相談
  • 就活の大きな決定は一晩考える
  • 困ったらすぐに連絡できる関係維持

第6章 正しい就活支援の選び方

優良な就活支援サービスの特徴

すべての就活塾が悪徳ではありません。以下の特徴を持つサービスは信頼性が高いと考えられます。

■ 透明性の高い運営

優良サービスの公開情報:

  • 料金体系(総額、内訳、返金規定)
  • カリキュラムの詳細
  • 講師のプロフィール
  • 過去の実績(具体的な内定先等)
  • 会社情報(設立年、所在地、代表者)

■ 健全な勧誘姿勢

  • 説明会は1〜2時間で終了
  • 検討期間を設ける
  • 親御さんの同席を歓迎
  • 他社との比較を推奨
  • 独自のクーリングオフ制度

■ 適正な価格設定の目安

一般的な相場(あくまで参考):

  • グループ講座:5〜20万円
  • 個別指導込み:10〜30万円
  • 全額返金保証付き:20〜40万円

※50万円超は要注意

公的機関の積極的活用

■ 大学のキャリアセンター(無料)

提供サービス:

  • ES添削、面接練習
  • 企業説明会の開催
  • OB/OG訪問の仲介
  • インターンシップ紹介
  • 個別キャリア相談

■ 新卒応援ハローワーク(無料)

全国56か所に設置:

  • 専門ナビゲーターによる個別支援
  • 就活セミナー
  • 企業情報提供
  • 就職面接会

■ 地方自治体の支援(無料)

  • 東京都:東京しごとセンター
  • 大阪府:OSAKAしごとフィールド
  • 各都道府県:ジョブカフェ

終章 就活生とその家族へ伝えたいこと

就活の不安につけ込む者たちへの怒り

私がこの問題に強い憤りを感じるのは、悪徳業者が狙うのが、真剣に将来を考えている若者たちだからです。

東京都が公表した被害事例を見ても、被害者は皆、真面目に就職活動に取り組もうとしていた学生たちでした。その純粋な気持ちにつけ込み、「あなたは一生成功しない」などと人格を否定し、法外な金銭を騙し取る。これは許しがたい行為です。

本当の「就活力」とは何か

高額な塾に通わなくても、以下の方法で十分に力をつけることができます:

無料でできる就活準備:

  • 大学のキャリアセンター活用
  • OB/OG訪問
  • インターンシップ参加
  • 友人同士でのES添削、模擬面接
  • 公的機関のセミナー参加

これらはすべて、無料または低コストで実践できます。

失敗を恐れないで

就職活動での不採用は、「あなたに価値がない」ということではありません。単に「その企業との相性が合わなかった」だけです。

就活の「失敗」は人生の失敗ではありません。自分と向き合い、成長するチャンスです。

社会全体で若者を守るために

この問題は個人の注意だけでは解決しません。

  • 大学関係者:キャンパス内の不審な勧誘への対応強化
  • 企業採用担当者:新卒者の可能性を信じる採用姿勢
  • メディア:継続的な問題提起と啓発
  • 立法・行政:より実効性のある規制の検討

緊急連絡先

  • 消費者ホットライン:188(局番なし)
  • 法テラス:0570-078374
  • 警察相談専用電話:#9110

参考資料

  • 東京都生活文化局「悪質事業者処分情報」(実際の処分事例)
  • 国民生活センター「就活商法に関する注意喚起」
  • 消費者庁「若者の消費者トラブル」

本記事の内容は2025年11月時点の情報に基づいています。事例の一部は説明のための典型例として構成したものです。実際の被害事例については、東京都や国民生活センターの公式発表をご参照ください。

 

入社するには身元保証が必要?


身元保証書を提出

入社時に「身元保証書」の提出を求める企業が大半です。

これは、企業が労働者を雇って使用する際に,使用者が損害を被る場合に備えて,親戚や知人などに,その損害を補填するように約束させておくものです。売上金の着服等、労働者の行為によって企業が受けた損害を、労働者が賠償できない場合のために、あらかじめ身元保証人を立てておくものです。このような契約を「身元保証契約」といいます。

身元保証法の規定

雇用契約に伴う身元保証については,保証人が不当に重い責任を負うことのないように,法律に規定が置かれています。具体的には、「身元保証ニ関スル法律」(略して「身元保証法」といいます。)によって、身元保証人の責任は限定的なものとされています。 この法律には、
① 一部例外を除き上限は 3 年
② 労働者の行為によって身元保証人の責任が発生しそうなときや、労働者の任務等の変更によって身元保証人の責任が重くなる場合には、企業から身元保証人に通知する必要がある。また、身元保証人はそれを理由に、以降の契約を解除することが出来る
③ 保証すべき金額は損害額そのものではなく、会社側の過失等一切の事情を考慮して、裁判所が決定する

等の規定があり、これに反する契約で身元保証人に不利益なものは無効となります。

ブラック企業の身元保証書に注意

身元保証契約は労働契約とは別個のものであって、労働契約にあたって必ず締結しなければならないものではありません。しかし、実際には入社時に提出を断るのは難しいでしょう。

ブラック企業などでは、法律に反した身元保証書を提出させようとするケースがあります。身元保証書を提出したとしても、法律に反する請求が無効となることは就活生も覚えておきましょう。

試用期間の過ごし方


試用期間とは何か

会社説明会などで、試用期間についてしっかり説明を受けておく必要があります。就活生は手取り額などの待遇面に関心が集中しがちなので、注意が必要です。

試用期間とは、被用者の勤務態度・能力・技能等を見て正式採用するかどうかを判断する期間です。試用期間中といっても、既に会社で働いている訳ですから、雇用契約は始まっています。したがって、本採用しないことは「不採用」ではなく「解雇」となるため、合理的な理由が必要となります。

この場合に要求される「合理的な理由」とは、試用期間中の勤務状態等により、採用前には知ることができなかった重大な事実が判明したような場合です。

試用期間の長さ

試用期間が長すぎたり、短い試用期間を何度も延長したりすると、労働者に対して重大な不利益を及ぼします。試用期間の長さについて、「◯年以上を禁止する」と定めた法律はありません。しかし、判例では、「労働者の能力や勤務態度等について判断するのに、通常必要な範囲を超えた試用期間については無効」としています(ブラザー工業事件 名古屋地裁判決昭 59.3.23)。

契約書によって定められた試用期間を、正当な理由なく延長することは認められません。

特殊な試用期間

契約社員など形態での契約を交わし、一定の「期間を定めた雇用」をすることで、正社員としての適性を見極めようとする企業もあります。この場合、「解雇」ではなく「契約満了」となるため、本採用しないことが簡単に可能になってしまいます。就活生にとって非常に大きな不利益になるケースなので、就活中には説明会なのでしっかりと説明を受けましょう。

なお、能力や適性について良く知っているはずのパート労働者を正社員に登用する際に試用期間を設けることはできません。

内定中の研修は出席が必要?


内定期間中も研修が行われる

就活が成功し内定を獲得しても、学業に専念できるとは限りません。内定期間中に企業が研修を行う場合が多いです。

内定期間に企業が行う「研修」については、就活生(内定者)はどのように考えるべきでしょうか。

法律上はどのように扱われるか?

任意参加の内定者研修だと伝えられていても、欠席することなどできないと考える内定者も少なくないでしょう。しかし、働き始めるのはまだ先なのに、なぜ研修に参加しなければならないかという問題があります。この点について法律上どう判断すべきでしょうか。

企業は内定者に業務を命令できない

研修日に臨時で雇用され、業務命令で参加している場合、研修であっても「賃金」は支払われますし、研修中にケガを負った場合等には労災保険が適用されます。

本来、学生は学業に専念すべき立場にあるため、新卒採用の場合には内定者はまだ在学中です。したがって、内定期間中において企業が内定者に業務命令をすることはできません。内定者が自身の自由な意志で同意した場合に限って、業務命令に応ずる義務が生じます。

また、いったん研修の参加に同意したとしても、学業と抵触する場合等やむを得ない理由がある時には研修参加を取りやめることができます。その場合企業は、内定者が約束した研修参加を取りやめたことを理由として、内定を取り消すことはできません(宣伝会議事件 東京地裁判決 平成 17 年 1 月 28 日)。

研修を強制された場合には相談

上記の通り、企業は内定者に対して自社の研修へ参加を強制することはできません。そのため、内定後に内定先企業から研修参加を矯正されたり、事実上強制と同視できるような状況に遭った場合には、就職課やキャリアセンターなどに相談してください。

そのような強制をしてくる企業は「ブラック企業」と言えますので、採用後にも違法な扱いを受ける可能性が高いです。場合によっては、内定を辞退して新たな就職先をさがすべきでしょう。

決して一人で悩まず、大学の就職関連部署や専門家に相談してください。

内定辞退をすると違法?注意点は?


意思表示から2週間で労働契約は終了

 内定者の方から入社を辞退する場合には、民法第627条により、労働契約解約の意思表示をした日から2週間経過することによって、契約は終了するとされています。労働者には憲法で認められた「職業選択の自由」があります。したがって、内定の辞退を企業が拒否することはできません。

民法第627条 (期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

1.当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2.期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

3.六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三カ月前にしなければならない。

 しかし、そうは言っても、一度約束したことを取り消すわけですから、なるべく早く、はっきりと意思表示し、出来る限り迷惑をかけないようにしましょう。複数の会社から内定をもらった場合、自分の適性、やりたいこと、会社の将来性などを十分に考慮して、早めに就職する会社を決め、実際に就職するつもりのない会社に対しては、内定辞退の申し入れをすべきです。本採用間近の内定辞退は会社にも他の就活生や後輩にも迷惑をかけます。

会社側が内定取り消しするには制約あり

 一方で、企業側からの内定取消しについては、法律的に多くの制約があります。前々回「内定=労働契約成立?」の記事で説明したとおり、内定によって労働契約が成立します。前回「内定取り消し=解雇」の記事で説明したとおり、内定取り消しは法律上は「解雇」と同じだからです。そのため、正当な理由がなければ内定取り消しは認められません。

悪質な企業は理由をデッチ上げて内定辞退を迫る

 しかし、急激な景気の変動などによって、就活期間途中で採用方針を変える企業もあります。実際に、リーマンショックや東日本大震災の時には、内定者に対して「内定辞退届」の提出を強要するなどのトラブルもありました。悪質なケースでは、内定者に対して能力的に過大な要求をしたうえに、「能力不足」・「業界に向いていない」・「不採用になるより辞退した方があなたのため」などの理由で、内定辞退を迫る企業もありました。

 厚生労働省は、「本人の意思に反して内定辞退を強要するなどの不適切な事例は、本来は採用内定取消しとして取り扱うべき事案である可能性がありますので、ハローワークが事実関係を確認し、内定取消通知書を提出するよう指導する場合があります」としています。(厚生労働省『事業主の皆様へ ~新規学校卒業者の採用内定取消し、入職時期繰下げ等の防止に向けて~』)

悪質な企業には泣き寝入りせず専門家に相談を

 もし、意に反して内定辞退を強要された場合には、すぐに応じず、専門家や学校のキャリアセンターなどに相談してください。もっとも、このような悪質な企業は「ブラック企業」である可能性が高いので、その企業には就職せずに他の就職先を探しましょう。

東京都「就活必携労働法」を参考に作成

内定取り消し=解雇


内定の法的性質

 前回の解説で述べたように、内定期間中は勤務は開始していないですが、労働契約そのものは成立しています。労働契約も「契約」である以上、内定者と企業の両方がこれを守らなければいけません。

 「内定」によって労働契約が成立している場合には、企業側の都合による「内定取消し」は「解雇」と同じ意味を持ちます。したがって、労働契約法や労働基準法などで決められた、「解雇」についてのルールを守る必要があります。具体的に法律の条文を見てみましょう。

労働契約法第16条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働基準法第20条(解雇の予告)
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

労働基準法第22条(退職時等の証明)
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

内定取消には合理的な理由が必要

 これらの条文に書いてある条件に加えて、企業から内定を取り消す場合には、解雇と同様、合理的な理由が必要になります。すなわち、採用内定当時に既に知っていた事情を理由とした、内定取消しは認められていません。学校を卒業できない、健康状態が悪化して仕事が出来ない、履歴書の不実記載、犯罪行為、企業の経営状態の悪化など、内定時に予測できなかった「重大な理由」がなければ内定取り消しは出来ないのです。

 また、国は企業に対して、「採用内定取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講じること」を求めています(新規学校卒業者の採用に関する指針)。さらに、止むを得ずに新卒の採用内定取消しを行う場合には、事前にハローワークなどに通知する必要もあります(職業安定法施行規則第35条第2項)。

 内定が取り消された場合には、専門家に相談することをお勧めします。

東京都「就活必携労働法」を参考に作成

内定=労働契約成立?


「内定」って何?

 就活を進めていくと、一定の時期に企業から「採用内定通知」が送られてきます。また同時に、「承諾書」や「誓約書」などの書類提出を求められます。このような手続きが始まると、企業と就活生の間には「労働契約」が成立したと考えられるのでしょうか?不安になった就活生から、毎年多くの質問が寄せられています。
 裁判所の判決によると、少なくとも、内定通知と誓約書などの提出の両方が揃っていれば、「労働契約」が成立しているとされます。ただし、契約を締結したからといっても、すぐに働き始めるのではありません。通常の就活の場合、学校の卒業を条件に、4月1日から働きはじめる契約になっています。これを「始期付解約権留保付労働契約」といいます。

「内々定」とは?

 一方「採用内々定」は、「採用内定通知」以前の段階で行われるもので、まだ選考の途中に過ぎません。したがって、一般的にはまだ採用が正式決定していないと考えられています。しかし、名称が「内々定」であっても、その企業の毎年の採用方法や、応募者とのやり取りの経過によっては、「契約が締結されている」と解釈できる場合もあります。不安な場合には専門家にご相談下さい。

「内定」に関する最高裁判例

「採用内定の実態は多様であるため、・・・一義的に判断することは困難であるが、本件の事実関係のもとにおいて・・・企業者からの募集に対し求職者が応募したのは労働契約の申し込みであり、これに対する採用内定通知は、右申込みに対する承諾であって、求職者の誓約書の提出とあいまって、これにより、就労の時期を大学卒業直後とし、それまでの間、誓約書記載の内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのが相当である」

(大日本印刷事件 最高裁判決昭和 54.7.20)

東京都「就活必携労働法」を参考に作成

求人情報の記載内容は信じていいの?


「求人票」の見方

 インターネット上の求人情報、学校のキャリアセンターや就職課に掲示される求人票の情報を見て会社説明会に臨む就活生が多いでしょう。しかし、それらに記載されている情報は、企業が保証している「労働条件」そのものではありません。注意深く見てみると、賃金などについても「実績」・「見込み」と記載されているのが普通です。

 したがって、会社説明会や面接で担当者から受けた「説明内容」が、上記のような情報源に記載さていたものと異なっていた場合には、説明会などでの「説明内容」の方が優先します。求人票に賃金見込額として記載された初任給などは、入社時までに確定されることが予定された「目標」としての額とされており、実際の額と異なるからといって、就職後に請求することはできません。

インターネットの情報だけに頼るのは危険

 インターネット上の情報だけに頼って就活すると、大切な情報をキャッチできない危険性があります。会社説明会などに実際に参加し、担当者の話をしっかりと聞いて、HPなどに掲載された情報とズレはないか確認するようにしましょう。

 ただし、応募者は求人票の記載内容を期待して応募している訳ですから、実際の賃金が求人票の見込額を著しく下回ることは許されないとされています(八州測量事件 東京高裁判決昭和58.12.19)。求人票に掲載された条件を「著しく下回る」ようなブラック企業であることが入社後に発覚した場合には、毅然と対応することも必要です。

東京都「就活必携労働法」を参考に作成

 

就活の流れを法律的に考える


就職活動の流れを労働法の視点から見ると、どうなるのでしょうか。「内定を蹴ったら訴えられる?」「企業は内定を自由に取り消せるの?」などと、不安な気持ちで就活を始めている学生も多いと思います。

そこで今回から、就活の流れに沿って、就活生が知っておくべき労働法の知識を解説していきたいと思います。

新卒採用では、「企業の求人情報の公開」→「募集開始」→「応募」→「採用試験」→「面接」→「内定通知」および「承諾書などの提出」→「入社」という流れで就活が進んでいくのが一般的です。これを図にすると、下記のようになります。

就活の流れ

東京都「就活必携労働法」より引用


就職活動期間は、内定・採用などの出来事によって区切られており、法律的な関係も、それぞれの期間によって変わってきます。それぞれの期間ごとにポイントを見て行きましょう。

 

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